「梅雨が明けたから、返すよ」
バーの店先まで、ぼくは彼らを追った。何も言わないマスターはやさしい人だ。後で謝ってお礼を言わなくてはならない。
彼らは遠くで輝く人だった。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。僕に傘を貸してくれて、ありがとう」
雨上がりの夜空に、月と星がきれいだった。
「ジン・ライムでも、飲もうかな」
「……きみの音楽の趣味は、いつも意外だ」
「あなたこそ」
ぼくの知らない音楽を彼らは知っている。
「……悪くはないが、シェイクすべきなんじゃあないのか」
ぼくの知らない知識を彼らは知っている。
「さあ、どうかな。先のことなんて、わからないから」
けれどぼくにも彼らにも、先のことなどわからないのだ。けれどきっと、ぼくらは、胸の奥底に永遠を抱いて、生きていくのだ。
彼らはバー『RAY』を後にした。
夜空はどこまでも澄み渡っている。
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