カランコロンと鳴るドアベルの音を捉えたマスターは、RESERVEDの札をそっと外した。霊能力者のお出ましだった。開店直後のバーに、客は彼ひとりだった。
彼が何も言わずとも、マスターは酒を用意しはじめた。バーボン。メーカーズ・マークのロック、シングル。彼はそれをひとくち飲むと、スマートフォンを取り出して、電話番号を打ち込んだ。三桁、四桁、四桁。記憶が確かなのか、入力に慣れているのか、彼の指先には一切の迷いがなかった。にもかかわらず、発信ボタンの直前で指先は逡巡を見せた。数秒。ついに画面をタップした彼は、しかしたったの三コールで切ってしまった。そしてまた、酒をひとくち。
「あいつ、何がよくてこればっかり飲んでるんだろうな……」
楽しげに細められた透きとおるブルーの瞳が、暗い店内できらきらと光った。
『あかい、またね』
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