あなただけに、内緒の話をしましょう。
実はかおるさんの鞄の中には、もうひとつ、ぼくにそっくりなぬいぐるみがいたのです。
ある夜、かおるさんはぼくにお話をしてくれました。
「もしも……もしもだよ、もし子猫ちゃんが、君の傷痕まで治してほしいと言ったら、私は魔法を使うことができるんだ。けれどその魔法は、君には残酷なものかもしれない」
きっとかおるさんは、ぼくがかつていたあのクレーンゲームで、そのぬいぐるみを手に入れたのでしょう。かおるさんの治療を受けたぼくは、かおるさんの魔法がなんなのかよくわかりました。
ひょっとすると、その子が新しいベアンになるかもしれないのです。
けれど、いちばん大切なことは、ご主人さまを決してひとりぼっちにしないことです。だからぼくには、かおるさんの魔法はとても素晴らしいものに思えました。
「けれど約束しよう。その魔法を使うことになっても、私は君の友人だ。君をひとりぼっちにはしないよ」
ぼくはなんだか、うれしいような苦しいような、ふしぎな気持ちになりました。なぜって、かおるさんが、ぼくのご主人さまとぼく、どちらも同じくらい大切に思っているのが、ちゃあんとわかったからです。だからぼくはへっちゃらでした。ご主人さまの側にいられなくなったら悲しいけれど、かおるさんを見ながらご主人さまのことを想うのも、きっとやさしい日々になるでしょう。
そんなことがあったのは、ぼくとあなただけの内緒ですよ。なぜって、マジシャンはミステリアスでなくっちゃなりませんから。
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